相談者は経済関係の情報を取材し、ネットや、雑誌等で配信する事業を行う会社で記者として働いていましたが、記者には残業代はないといわれ、残業代が支払われていませんでした。
相談者は、その会社を独立した先輩から頼まれて、数本記事を執筆したのですが、そのことが会社にばれてしまい、懲戒解雇されてしまいました。
相談者は、会社の許可を得なかったことは反省すべき点だと認識していましたが、会社の機密情報を横流ししたというわけではなく、誰でも申請すれば閲覧可能な公的な情報や現地に行けば分かるような一般的な情報を記載した記事であり、メールのやり取りなどわずかな時間を除いて勤務時間外に副業を行った物であり、会社に直接的な損害を生じさせたわけではなく、解雇されるのは納得がいかず、相談に見えられました。
解雇は、労働者の生活の糧を奪うものですから、やむに已まれぬ事情で最終手段として初めて認められるものです。勤務時間外に何をするかは基本的に労働者の自由で会社が介入すべき事柄ではありません。会社の財産(営業上の秘密を含む)を侵害したといった場合は別ですが(本件は記事の内容からして、そのようなものではないことは明らかでした。)、副業を止めるようにとの警告なしにいきなりの解雇が認められるということは稀です。また、一部勤務時間中に副業を行っていましたが、そもそも勤務時間中に常に100%で業務に当たるのは人間の生理的に不可能です。お茶を飲んだりして小休止したり、同僚と雑談したりすることは、人間関係を円滑にしたり、その他の時間より集中して業務するために有益な行動であり広く認められていることであり、常識の範囲内であれば(例えば、1日の労働時間の半分近く業務外のことをしていたというような極端な事案でなければ)、処分の対象とはなりません。
労働審判を申し立てたところ、相手方は必死に抵抗していましたが、裁判所は無事解雇は無効と判断しました。なお、会社はライバル会社に協力したことを背信的だと強調していましたが、裁判所は相手にしてませんでした。その点は会社の代表者の個人的な思いに過ぎないと判断したのだと思われます。
残業代については、会社は専門型裁量労働制と主張していましたが、以下の点を指摘すると会社も大きな抵抗を示さず、当方の主張する金額の8割ほどは支払うとの姿勢を示しました。
・専門型裁量労働制の適用がある旨の労使協定がない
・そもそも、定時は1日8時間となっており、実際に定時の時間中は勤務しており、労働時間の裁量は特になかったこと
裁量労働制は実際には労使協定などの手続き的な要件に加えて、実際に労働時間について裁量がなければ有効になりません。実際上裁量労働制が有効と判断されることはほとんどありません。裁量労働制だからと会社が言っていたとしても、あきらめずにご相談ください。