過労死の危険
①労働時間規制制定の経緯
労働基準法が残業代の支払いを命じているのは、労働時間規制をしなければ、使用者が労働時間を管理するインセンティブが失われ、むしろ労働時間を延ばすことにより、利益を増大させようと、際限なく長時間労働が蔓延してしまいかねないからです。
しかしながら、我が国では、労働時間の規制が長年不十分であり、労使協定(36協定)があれば、残業を命じることができるとされ、しかも36協定の残業時間の上限がないという状態が最近まで続いていました。
また、残業の割増率も欧米諸国と比べて低く社会保険料の負担等を考えると割増を支払っても新たに人を雇うより残業させた方が得という状況になっていました。
しかも、中小企業を中心にサービス残業が横行することにより、残業時間の制約が全く効かないという状態が蔓延していました。
そのような中で、わが国では過労による脳疾患や心臓疾患による突然死や精神疾患による休業や自殺が社会問題となりました。
KAROSHIは世界共通語となり、国連から改善を勧告されるという状況にまでなりました。
このような外圧もあり、また過労死遺族や過労死弁護団の長年の働き掛けもあり、過労死防止対策推進法が制定されました(なお、代表弁護士自身も過労死防止法の制定に際しては、遺族とともに国会を回るなどかなり関わっています。)。
その後、過労死防止対策推進法が成立後も啓発活動や調査活動は開始したものの、具体的な労働立法の改正の動きにはただちにはつながりませんでしたが、労働人口の減少による人手不足と労働生産性の必要性という要素も追い風となり、2019年にようやく労働時間の上限規制が導入されました(中小企業は2020年から)。
それまでも、大臣告示として行政指導の目安という形の基準はありましたが、指導されるというだけで法的拘束力はなく、大臣告示を無視した36協定も大企業でも普通に受理されているという状態が続いていました。
https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/overtime.html
②過労死ライン
過労死ラインとは、脳心臓疾患の認定基準が発症直前1か月が100時間、発症直前の2か月から6か月の平均が80時間を超える場合に労災と認めることから、月80時間、もしくは月100時間を過労死ラインと俗に言います(なお、精神疾患の労災認定基準はより複雑ではありますが、実際の運用はそれほど変わらないと理解いただいて結構です。)
③労働時間規制の概要
ようやく、制定された労働時間規制は原則45時間、年6か月まで平均80時間、年間720時間までとされています。
月80時間というのは過労死ラインの1日4時間残業の12時間労働であり、休憩時間と通勤時間を最低限の家事(風呂、洗濯、弁当等を食べる)の時間を加味すると、睡眠時間を確保するぎりぎりのラインです。
しかも、年720時間や月45時間は休日労働は含まれず45時間の残業とは別に休日労働は認められているため、抜け穴だらけというのが現状ですが、それでも上限ができたという意味は小さくありません。
④残業代請求は命を守るためのものです
労働時間の把握と、残業代をきっちり支払わせることこそ、過労死防止の基本です。
私は過労死を多数扱っていますが、残業代をしっかり支払っている事案で過労死が起きることはかなり稀で、理由は様々ですがほとんどが残業代を支払っていない職場で過労死は起こっています。
残業代を請求して、労働法規を守らせることは、あなたと周囲の命を守ることです。
勇気がいるかもしれませんが、残業代を払わせることには大きな社会的な意味があります。
当事務所では、残業代を請求しようと考える労働者を誠心誠意サポートしております。